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浦和地方裁判所 昭和35年(ヨ)51号 決定 1960年5月02日

申請人 昭和電工株式会社

被申請人 昭和電工秩父工場臨時従業員労働組合

主文

一、申請人会社が金百万円の担保を供することを条件として、

(一)  別紙物件目録記載の土地(代表地番秩父市下影森一、五〇五番地)のうち、別紙第二図面二の(イ)・(ロ)・(ハ)の1・(ハ)の2赤線内の部分に対する被申請人組合の占有を解き之を申請人の委任する浦和地方裁判所執行吏の保管に付する。

(二)  執行吏は前項の保管部分につき申請人会社役員、被申請人組合員以外の申請人会社従業員及び申請人会社と取引関係に立つ者として申請人会社が指定する第三者の使用を許さなければならない。

(三)  被申請人組合は組合員によつて別紙物件目録記載の土地(代表地番秩父市下影森一、五〇五番地別紙第一図面(イ)及び(ロ)赤線内の部分)に立入つてはならない。

(四)  被申請人組合は組合員によつて申請人会社役員、申請人会社の代理人たる弁護士、被申請人組合員以外の申請人会社従業員及び申請人会社と取引関係に立つ者として申請人が指定する第三者が別紙第一図面(イ)及び(ロ)赤線内の部分に出入し又は物品を搬出入することを妨げてはならない。

(五)執行吏は前各項の目的を達するため適当な公示方法をとらなければならない。

二、訴訟費用は被申請人の負担とする。

理由

第一、被保全権利の存否

申請人の疏明によれば

一、被申請人(以下組合という)は、申請人(以下会社という)秩父工場の臨時従業員(以下臨時工という)の大半を以て組織されている労働組合であるが、昭和三十五年一月二十六日申請人が臨時工の中より二十名程度を正従業員(以下本工という)に採用することにつき組合に協力を要請したことに端を発し、同年三月十八日から争議に入り、その後ストライキを継続し、現在、

(一)  第三電炉室の調整器室及び休憩室(別紙第二図面二の(イ))を占拠し、調整器室出入口の梯子を取外し、扉を閉鎖し、

(二)  第四電炉室の調整器室及び休憩室(別紙第二図面二の(ロ))を占拠し、右同様梯子を取外し、扉を閉鎖し、

(三)  第二電炉室のSC第二号電炉及び第二電炉室クレーン(別紙第二図面二の(ハ))の周辺にバリケードを構築してこれを占拠し、

結局、第二ないし第四電炉室の機能を停止させていること。

同年三月二十三日及び翌二十四日、正門及び裏門において被申請人の組合員はワイヤーロープ、旗竿で申請人会社の石灰運搬車の通行等申請人会社の業務の執行を妨害し、将来もその妨害のおそれがあること。

の諸事情が認められる。

被申請人は、右の行為は正当な争議行為であると主張するが、前記の如く、第二ないし第四電炉室を実力で占拠し、或は正門及び裏門において運搬車の通行を妨害する諸行為は、罷業権を行使する上において必要不可欠のものとは認められないので、正当な行為とは認められない。

別紙第一図面(イ)及び(ロ)赤線内の部分(別紙第二図面の各赤線内の部分を含む)の土地、建物は何れも会社の所有に属するものであるから、会社は所有権に基き組合の右妨害行為を排除する本案の権利を有するものと認められる。

第二、仮処分の必要性

疏明によれば、現在の争議状態が継続した場合には本工がフルに稼働できないために一日当り、L・C(低炭素フエロクローム)の減産量は三四頓でその販売価額は五、三七二、〇〇〇円であり、更に、L・Cは需要家別に特殊規格があるため早急の代替は困難であり需要家に対する安定した販路とその信頼を失うおそれがあり、これ以上争議状態が継続することは会社にとつて重大な損害を来す事情となるものと認められる。

第三、結論

以上の次第であるから、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 岡岩雄 田中加藤男 篠田省二)

(別紙省略)

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